「好きになっちゃいけない人間でも、好きなもんは好きなんだよ。消せない。 なら、上書きくらい、できたっていいだろ?」 「あたしは、上書き用のペンキみたいなもの?」 「あんただって、俺をそう扱っていいよ。だから……」 ――好きに、ならせてよ。 切ない響きが、耳に忍び込む。 あたしは、返事の代わりに、だらりと垂らしたままだった両手を、持ち上げて。 そっと、樹也の背中に、回した。