「いまの、8組の三荻?」


静かな声が、鼓膜を震わせる。

静かすぎて、嵐の前触れみたいで、怖い。


「付き合ってる」


短く、あたしは云い捨てた。


「だから……だから、もう昨日みたいなコト、しない。絶対に、しない」


――昨日の夜みたいな怖くて、怖くて――しあわせとしかいいようのない行為、なんか。


「絶対、だから」


そのまま、
開け放った玄関を塞ぐ明良の身体を押し退けて、
家の中に入ろうとする。

その腕を、さらわれた。


「ちょっ……ッ!」


回った視界の端に
三和土に揃えられたじいさまの穿き鞣した革靴。

――騒いだら、まずい。

怯んだあたしの唇を
明良の唇が塞いだ。