ぺろりと、
自分のものじゃない舌が
あたしの唇に残った感触を
上乗せする。

目を見開いたあたしを、見て。

樹也が、心底愉しそうに笑った。


「じゃあな」


ひらりと手を振って
今度こそ夜の闇に溶けていく。

たっぷり十秒間。

樹也の姿が消えるのを待って
あたしはぱたぱたと、
強張った自分の肩を叩いた。


――さすがに、コレは効いた。


他人事みたいに考えて
やっぱり冷静な自分を確認する。

心が、揺れない。


「明姫」



――声だけで、

ぐらつくあたしだって、

存在するのに。