「ここ」
短くつぶやいて
錆びた鉄の門扉を指差す。
「そっか」
樹也は頷いて、あっさり手をはなす。
するりと指先がほどけた瞬間
感じた空気の冷たさではじめて。
目の前の、
いままでの人生では1ミクロンもご縁がなさそうな
ヒヨコ頭の人間と
手をつないでいたんだって、
実感がわいた。
ついでに
いままで一緒にいたのに
話していたことをなにひとつ
覚えていないことにも
気付いた。
……あたし、サイテーかも。
「あんた、ずいぶん難しそうだな」
あたしの表情の変化を
読んだのか。
上の空のあたしに、根気よく付き合ってくれた樹也が、苦笑した。