すっかり人気のうせた前庭を
校門に向かってまた歩き始める。
「……あなた、物好きだね」
「お陰さんで。
でも、ぼうっとしていても
痛みって変わらないじゃん。
治んない傷なら、余計」
叶わなそうな片恋保持者は
そんな風に云って笑う。
「だから、
あんたと付き合うのも
悪くないって思うよ」
「……三荻くんの印象も、
はじめほど怖くなくなった」
「なんだそりゃ」
ケラケラと、樹也が笑う。
「イツヤでいいよ。
三荻って名字、
あんまり好きじゃねえんだ」
「そう」
思ったよりも滑らかに、
途切れない会話。
気安い樹也にほっとしながら
あたしは
頭の裏側で別のコトを考えていた。
あたためるつもりのない気持ち。
真っ直ぐに向き合う気さえない心。
――むしろ、なかったことにしてしまいたい想い。
なのに
乱暴に扱うとなぜ
裏切ったような後悔に
襲われるんだろう。
そんな、埒もないコトを考えていた。


