――そして、いま。


バカみたいに長い時間の果てに、明姫が、目の前にいる。

長い綺麗な髪を流し、化粧も板についた、俺の知らない大人の女。

だけど。

彼女の瞳を見ただけで、じわりと、沸き上がるものがあった。


凍り付いた身体の末端、指先が、ゆるやかに溶け出す。

たぶん、長い歳月の間、凍らせていたなにか、も。


次に本能が選ぶことを、俺はたぶん、十年前から知っていたんだろう。


あのときの、言葉の通り。

もう、俺はためらったりなんか、しなかった。