その海は、ぜんぜん劇的な登場じゃなくて。

道の最後は、濃い緑色をした、無愛想な防風林の群れだった。


「うみッ!」


潮の香りは近いのに、壁みたいに立ちはだかる林のせいで、海に近寄れない。

むうっとむくれながら、防風林を横にたどった。


「すぐに見えるだろ? すぐ怒んなよ」


呆れ顔の明良に、なだめられる。

その様子に、すとんと、腹立たしさが落ちた。


「……そうだね。すぐに、着く」


パサついた声を、喉から押し出す。

浮き立っていた気持ちが、少しずつ、しん、と静まっていく。

代わりに浮いてくるのは、かたちない物寂しさ。


いつだって、そう。


楽しいのは過程で、欲しいのは結果なんかじゃない。


「ほら、明姫」


明良が、他の誰とも違う響きで、あたしの名前を呼ぶ。

その指の、向けられた先に、緑の壁の切れ目。

あたしの足は自動的に動いて、あたしを、終わりに運んでいく。


錆びた鉄の入り口をぐぐって、ぱっと開けた視界の、その、先に。


確かに、焦がれたはずの、海が横たわっていた。