「じいさまの呪いだよ」


歌うように、明良がささやく。

どこか、愉しそうに。


「明姫を守るのは俺だけで、だから明姫は俺のもの。
なのに、明姫にふれちゃいけないって、みんなが云う」


『おかしいよね』って、明良が笑う。

――ウソ。

【おかしい】なんて、明良は思っていない。

【当たり前】で【仕方ない】って、理性ではわかってる。

あたしが感じないものを、明良も抱えない。

明良にあたしがわかるように、
あたしにも明良がわかる。

それも、ふたりの間では【当たり前】だから。


「……だから、都倉さんと付き合いはじめたの?」


あたしが、樹也と【約束】したみたいに。

横顔の唇の端が、吊り上がる。


「明姫ばかりを、好きでいたくなかったんだ」


――ひどいセリフ。

きっちり几帳面に、あたしは傷ついてしまう。

うつむいたあたしの瞳に映るのは、手入れをサボってくすんだローファー。

これだけは一緒になりようのない大きさの違う、あたしの足と明良の足。


「ダメだったけどね」