昨日の夜は、しあわせだった。
ほんの短い時間でも、しあわせだった。
明良が、笑ってくれた。
それだけでしあわせになれるあたしが、いる。
「帰らなきゃ……」
じいさまが、心配する。
力の入らない足で立ち上がって、ゆらゆら定まらない足取りで部屋を出る。
書架が並ぶ埃くさい図書室。
薄闇に沈みかけた廊下。
段と段の狭間が暗く落ち始めた階段と踊り場と。
なんだか夢のなかにいるような気分で歩いて。
歩いて。
行き着いた場所には。
あたしと同じ髪。
あたしと同じ瞳。
あたしと同じ血を持つ、
あたしにいちばん、繋がった生き物がいた。


