「都倉女史、なんだって?」


リスみたいに頬を膨らませたあたしに、なぎは訊いてくる。

中身を飲み込んでから、あたしはぱさついた口を開いた。


「明良の邪魔、しないでって」

「で、あきちんはなんて答えたの?」


長い足を組み換えて、なぎが身体を前に傾ける。

うつむくあたしと顔が近くなって、息づかいも近くなる。

まるで、キスでもしそうな近さ。


「答えかけで、なぎが来たのよ」


でも、気持ちは決まっていた。


額と額がぴたり、くっつきそうな距離で、つぶやく。

ちいさなちいさな、声で。


「あたし、間違ったのかな」


明良を突き放して。

樹也の手を取って。

その先にあたしが予想していたのは、他の景色だった。


「あたしの希む通りに、ぜんぜん転がってくれない」


まるで、へたくそなビリヤード。

突いた玉はあたしの期待と違う場所に跳ね、希まない玉をポケットに落とす。

――そういえば、明良はビリヤード、うまかったな。

もう、一年以上、一緒に遊んではいない。