「え」

五階までやっと来てくれたエレベーターの扉が開くと、その中には待っていた朝永さんが居た。
朝永さんは私を見ると、何で居るんだと目を見開きながら言葉を漏らした。

私はそんな朝永さんの反応なんて気に留める心の余裕もなくて、肩の力が抜けて安心していた。


「何で泣いてんだ……しかもパジャマに裸足……」

そう言われて目元に触れると濡れていた。
次に足元を見ると、朝永さんの言う通り裸足。
言われるまで気付かなかった。
そりゃ朝永さんも驚くはずだ。

「だって、帰って、来ないからっ、心配してっ、ご飯、食べるって、言ったくせにっ」

声を出したら、嗚咽すら出ている程だと気付いたが言葉が止まらない。

「携帯の番号も、知らないしっ、こんな、雨の中、私の両親は、二度と、帰って、来なかった、から……っ」

「え」

思わず言葉を失ったような気まずそうな朝永さんの声を聞くとハッとした。

口走りすぎた。
空気を変えよう。