言葉が出ない。
胸が苦しすぎて。
出るのは涙だけ。

私は、身体を求められたいんじゃない。

私を求めて欲しいの……




「興覚め」


その言葉の後すぐに、ガチャンと開閉する扉の音。

目を開けると遠ざかる足音が聞こえて。

目の前から朝永さんと床に落ちているはずの彼の鞄と傘も一緒に消えていた。