「しー君、どうしたの?」

『シューズが朝練の時、壊れちゃって……その、悪いんだけど……』

しー君は申し訳なさそうな声だったが、大怪我をしたとか大事だったらどうしようと不安が過っていたから、そんな事かと安堵した。

シューズはランナーには大事な物だ。
だけど、あと十分で振り込みに行く時間が無い。

「分かった、お金振り込んどく。今からは無理だから、明日のお昼になるけどごめんね」

終業後に振り込んでも良いが、手数料もかかるし、それにしー君もお金を受け取れないしね。

『本当にごめん……』

しー君は自分の事でお金を使う時、いつも謝る。
そんな必要無いのに。

「謝らないで。私にはしー君だけだもん。世界で一番大切だもん。私のお婿さんだもん」

『また枯れたこと言ってる』

私のおふざけに電話の向こうからクスッと笑う声が聴こえてきて安心して電話を切った。

朝永さんの家を出るし、しー君の靴もあるし……はぁ……生きるってお金がかかるな……。