「言ったじゃない。朝永君はそういう男だって」

苦しそうな声の後、甘い香水の香りと温もり。
穂香さんが私を抱きしめた。

「泣かないで。つぐみちゃんを泣かせたいわけじゃないのよ」

どうやら私は泣いていたらしい。

ゆっくりと私の背中を摩る優しい手。
そのせいで涙が更に込み上げてきて、私は堪えるために奥歯を噛み締めた。

「穂香さん、大丈夫です。ありがとうございます」

私は穂香さんの胸に手をあてて、彼女から離れると私は涙をサッと拭って走り出した。


穂香さんが私のために言ってくれていることは分かっている。

でも言葉をこれ以上聞きたくなかった。
認めたくなかった。

朝永さんが昨日私じゃない女性と過ごしていたなんて。


朝永さんは朝もいつもならロッカールームの前で私を待ち伏せているのに今日は居なかった。
オフィスに入ってきたのも始業時間のギリギリ。
お昼もチャイムと同時にオフィスから出て行った。