私は手を引き摺られながら振り返る。
愛佳ちゃんがぴょんぴょん跳ねながら私に手を振っている。
そのままエレベーターに乗り込んだ。
私の左手は朝永さんに繋がれている。
何かを話したくても、大企業ということで周りには必ず人が居る。
下手に誰かに会話を聞かれたくないし、手を振り解いて朝永さんの機嫌を損ねたらマズイ。
朝永さんの頭の中が分かるまでは、私は自分から動けない。


「あの朝永が本気になったの!?」

「朝永君が女の子と手を繋いで歩いてる!?誰!?」

周りからは不穏な声しか耳には届いてこない。

貴方、本当に悪名高すぎる。


「でもあの子、今までのタイプとちょっと違うよね」

その言葉が気になった。

確かに朝永さんは酷い人だが、見てくれは良い。
今までの女性はどんな人かは分からない。

とりあえず、私のような九八〇円のTシャツにジーンズでは無いことは確かだ。

会社を出るまでそんな視線とひそひそ声を常に感じた。


そのまま私達は駅に着いた。
朝永さんは何も話さない。
朝永さんも周りにいる人々を気にして居るからなのだろうか?
電車の中も手を繋がれっぱなし。
緊張でか、手が汗ばんできた。
永遠に感じる程、長く感じる時間。

早く解放されたい……