Vanilla

突然のことに心臓がびっくりして、肩を竦めた。

何をするのかと硬直すると、目の前にはドアップの黒子。

直後、こめかみには優しくて温かい感触。

この黒子は朝永さんのトレードマークの左目の下の黒子だ。


まさか朝永さん……キスしてる！？


キスに気付くと心臓は一気に全力疾走したみたいに駆け出した。

動揺する中、その左目の下の涙黒子が遠ざかると背中に添えられていた手も一緒に遠ざかった。

私は見えた朝永さんの顔を見ながら動けなくなった。


「キャー！見せつけられちゃったー！」

目の前でキスを見せられた穂香さんがまた興奮し始めた。

でも私はそれどころではない。

まさかこめかみに軽いキスを頂戴するなんて思わなかったが、それよりもその無表情は何？

さっきまで甘い顔を貼りつけていたのに。

今のは演技なの？

それとも……


「はい、おしまい。喋ってたら食いっぱぐれそう。飯食べよ」

私が思考回路でグルグルしているというのに昼食に向き直し、箸を取った朝永さん。