だって朝から何も話してこなかった。
この人が話した言葉といえば「飯」と「会社行くぞ」の二言と、私が会社前で手を繋ぐのを拒んだ時。
私のこのモヤモヤに気付いてたのーーあ。
私達のさっきの会話を聞いていたのか。
会社では女除けのために私の恋人を演じているものね。

この人が私を心配するはず無いもの。

なんて考えていたら、突然朝永さんが私の座っている回転椅子を回して自分の方へとむけると私の前に屈み、私の顔を覗き込んできた。

近付いた距離に変に心臓が跳ねる。

「身体辛いなら、ちゃんと言って?」

その優しい言葉の後、更に心臓が飛び跳ねた。
朝永さんが私の背中を優しく擦ってきたから。

「大丈夫?」

少し顔を傾げる朝永さん。

心配そうな声と顔。

でもこれは、全部演技……


「大丈夫です……」


そう思ったら空しくなって、私は俯いて返した。