「でも、結局ただ振られただけなのにこんな落ち込んで…」

「普通振られたら落ち込むだろ。何?もしかして格好でもつけてんのか?俺に?おまえのオムツを替えてた俺に?」

「そ、それはいいから…」

何かあると引き合いに出してくるこのエピソード。私が覚えていない私まで全て覚えてるのだと、格好つけたがりの私を丸裸にする兄の技だ。

「それだけ本気だったんだろ。初恋だもんな」

「……」

「バカ真面目で不器用だから、なんでも真摯に向き合わないと気が済まないおまえを俺は知ってる。だからおまえが好きになったそいつとどうやって向き合ってきたのかも分かる。振られて落ち込んでも、ちゃんと向き合った分おまえは成長したはずだろ?だったらそれはそれで俺は良かったと思うよ」

そう私を励ましたのは、なんだか知らない大人の顔をした兄だった。そして、

「正直振った奴はぶん殴ってやりたいけど」

なんて言ってのける所は、やっぱりいつもの私の兄だった事にホッとした。私の恋愛話に兄がこんなに付き合ってくれるとは思わなかった。私はそんなに悲壮感漂う顔でもしていたのだろうか。思わず兄が励まさなければと保護者の顔を出す程に、私はきっと思い悩む姿を露わにしていたのだ。誰にも話せない、話したく無いと思っていた悩みだったのに、兄に少し話しただけでなんだか軽くなった。私の頑張りを認めてくれるなんて、こんな返答はきっとクラスの誰かでは貰えない。頑張った私を認めるなんていう方法、思いつきもしなかったし、その相手が兄だからこそのものだと思った。

そしてここで一括りついたようで、兄はいつも通りの軽い調子を取り戻して言った。

「つーか、普通に彼氏出来たんだと思ってたから拍子抜けした。おまえ彼氏に家まで送って貰ったりしてたって聞いたけど」

それは、ものすごい爆弾の投下だった。