「何かあったのか?」

それは、朝食の片付けをしている時に、ネクタイを締める兄から何気無く放られた一言だった。

「…何も無いけど」

どきりとして、そっと洗い物へと視線を逸らした。気付かれてしまった。隠そうと思っていた訳でも無いけれど、最近の悩みのいざこざを家にまで持ち帰ってしまっていた自覚が無かった。

昔からそう。兄はこういう事に割とすぐに気がつくタイプで、去年の私の友達の件もすぐにバレてしまっていた。当時は一緒に暮らし始めたばかりだった事もあり、献身的に随分と心配してくれて、その兄への申し訳なさが、行き場の無い私が学校へ行く為の原動力になったといっても過言ではない。また心配を掛けてしまった。

「でも最近おまえ楽しそうだったじゃん」

「そう、かな…」

「そうだよ。また友達と何かあったのか?」

「……」

ストレートに聞いてくる所が、なんとも兄らしい。兄妹なんてこんなものなのだろうか。うちの兄は私に対してズカズカと踏み込んでくるタイプだったけれど、私は別にそれが嫌では無かった。つい内側に籠りがちになる私はこうやって扱ってもらう方が楽なのだ。…もしかして、だからクラスの人達と上手くいってなかったのかもしれない。私に遠慮して気を遣ってくれる人ばかりだったから、私と皆の間の距離が余計に埋まらなかったのかも。

「友達は…増えたよ」

とりあえず、この話題から避ける事が出来なそうだったので、現状の良い面を報告した。

「おー、良かったな。で?そいつらと何かあったのか?」

そして、それだけでは引いてくれないお兄ちゃん。

「…みんな良い人だよ」

ポツリと、何かと言われて思いついた事を口に出した。