大事にされたいのは君


彼はまだ本当の恋をした事が無いという事は、まだ経験した事の無い感情が彼の中に眠っているという事なはず。今までの経験値から叩き出した結果通りに最後まで行くとは限らない。頭で描いたものと感情が別々で動き出す事なんてよくある事だ。

だからとりあえずやってみなよ的な事を言ってみたのだけれど…どうやら彼にはその答えが不満らしい。

「いや俺だって毎回さ、今度こそはと思ってチャレンジして結局ダメな訳よ。この人良い!って飛び込んで振り向かせるまで分かんないって、結局今までとやってる事同じじゃね?」

…いや、まぁ、うん。そうやって言われちゃったらそうなんだけど…

「…いつもより本気で探してる分、気持ちは違うはずだけど…まぁやってみなくちゃ分からないから、ダメかもしれないって不安は付き纏う…」

そればっかりは仕方がないと、私も匙を投げた。やっぱり彼自身が変わらないと無理なのかもしれない…なんて考え始めた私の思考は、もしかしたらハッキリと顔に出ていたのかもしれない。

「…やっぱ本当の恋なんて無理なのかもなぁ」

「俺って根っからのクズなんだ」なんて、いつもの彼からは考えられないような悲しい事を、俯き加減の口からポツリとこぼした。根っからのクズだなんて…普段、まるで世界の中心かの如く力強い存在感を発している彼だ。そんな彼の薄っすら諦めたような笑みを浮かべてる姿は、なんだか見ているこちらが辛い気持ちになる。何か良い方法は無いだろうか……ん?待てよ。

「…そもそも、付き合わなきゃダメなのかな」

「へ?」

何を言い出すのだと、ポカンと私を見つめる彼。そんな彼に私は確信を持って言う。

「なんでダメかもしれないのに付き合いたいの?付き合わなきゃダメにならないし、片思いのままでも充分立派な恋だと思う」

そうだよ、付き合わないで片思いのままならなんの問題もない。ずっと幸せなまま、ずっと大事な気持ちを抱いて大好きな人との傍に居られる。だって彼は友達として仲が良い分なら何にも問題無いのだから。