「あ、居た居た吉岡さん!」
静かな教室に大きな声が響いた。…瀬良君だ。
「良かったー、ちゃんと居た」
ホッとしたような表情を浮かべて、また前回同様隣の席に彼は腰を下ろした。あれだけ沢山の人の前で約束させておいて居ないはずがないだろうと思ったけれど、居ないかもしれないと不安に思ってくれた事が少しだけ嬉しかったから黙っておいた。
「待った?他の奴ら帰らせんの大変でさ。アイツら俺と吉岡さんを二人きりにさせない気満々なんだよ」
「それはそれで私は良かったけど」
「えー、俺は嫌だ」
「今日の話はみんな一緒じゃしにくい話なの?」
「しにくいっつーか、吉岡さんに聞いて答えて欲しいの」
「……そっか…」
私にとってはなんでだろうとしか思えないけれど、きっとそれを尋ねた所でこの間みたいに『吉岡さんはちゃんと答えてくれるから』、のような答えしか返って来ないのだろう。そう思うとそれは無意味なやり取りに思えて、ここで改めて彼に尋ねる気にはならなかった。
そして、「で、本題なんだけどさー」と、早速話し始めた彼に、私は意識を集める。
「この間の話、あの後ずっと考えてみたんだけど困った事になってさ。まず俺の好みってどんな人なんだろうって考えてみたんだよ、それが分かれば一番近道だよなぁって」
「まぁ、そうだね。的が絞れるっていうかね」
「そうそう。だけどそこで挫折した」
「…流石に早くない?」
「仕方ないんだって。だって自分の事好かれれば好かれる程冷めるって事はさ、逆に俺の事嫌いな人…は言い過ぎだとしても、好きにならない人、なってくれない人が好みって事になる訳じゃん。それって無理じゃね?その人はいくら俺が好きになったって付き合ってくれないし、付き合ってくれても好かれ過ぎたら俺の方が終わりだし」
まぁ確かに。確かにその流れなら普通は無理…というか、あり得る訳がない展開だと思う。普通に自分の事を嫌いな人とどうやったら上手く関係を築けるというのだ。…けれど、これがこの間の話の続きだとしたら、彼が求めているものはそう簡単に無理だと決めつけられるものでも無いと思う。
「そう言われれば確かにそうだけど、でもスタートがそうでもゴールがそうとは限らないでしょ?」
「と、いいますと?」
「君が好きになってくれないその人を好きになって向こうが振り向いてくれた時、そこでいつもと違う気持ちに気づくみたいな事もあるかもしれない」



