大事にされたいのは君




相談に乗った次の日から、私と瀬良君の距離感が少し変わった。

お互い挨拶を交わすような仲では無かったはずだ。だから次の日、後ろで「おはよう〜」と、彼の声が聞こえていても、私のはずがないと振り向く事も無く足を進めた…のは、間違いだった。

急に強く腕を引かれて振り返った先、そこには思った以上に距離の近い、いかにも不服そうな表情をした瀬良君が居た。そしてそんな彼に時と場所も考えない声量で怒られてしまい、まさかの事態に慌てて挨拶を返すも時すでに遅し。周りのクラスメイトからの視線がとても痛かった。

挨拶を終えると後ろの方で、「え、マジで?何が起きてるの?」なんて彼の友人達がこぞって尋ねていたけれど、彼はしれっと「挨拶しただけだけど?」と答えていた。まぁその通りだ。

それから毎日朝の挨拶、帰りの挨拶は続いて…約一週間後の事。

「吉岡さーん、今日時間あるー?」

周囲の目を気にする事も無く、予定を聞く為だけのものとは思えないボリュームで挨拶以外に声を掛けられた。彼は毎回声が一段階大きい気がする…ようやく挨拶慣れしてきていた周囲の視線がまたしても刺さる。

「…どのようなご用件でしょうか」

「ちょっとまた困ってる事があってさ、話聞いて欲しいんだよね」

「…いいけど…」

もう少しボリューム下げよう…周りの視線が私には痛すぎるから…とは、このやたらと注目の集まる中で言う事が出来なかった。わざとでは無いのは分かってる、いつも楽しそうな時の彼の声は教室の外に居ても聞こえてくるから。でもそうやって大きな声でこんな事を言うもんだから、彼はまた友人達に質問責めにあっている。

嫌じゃないのかなと、思いつつ、そんな状況でも誰にも声を掛けられない自分よりはマシなのかもしれないと思うと少し落ち込んだ。なんで昼休みに部活ミーティングがやたら多いんだ、唯一の友人朋花ちゃん…早く帰ってきて…

「じゃあまたこないだと同じ感じで!」

それに「はい」だか、「うん」だか分からない返事を小さくした後ーー迎えた放課後。

前回と同じように一人、私は教室で明日の課題に取り組んでいた。今日は何だろう、一体なんで私なんだろう。前回の答えがそんなに気に入ったのかとやりとりを思い返してみるも、別にこれといって特別な所は見当たらない。