大事にされたいのは君


「吉岡さんおはよー。今日一緒帰ろー」

「あ、うん。いいけど…」

いつも通り、毎朝と同じように私に声を掛けてくれた瀬良君は、私のなんだか煮え切らない態度に訝しげに首を傾げた。

「もしかして今日も予定有り?なんでも付き合うけど」

「い、いや、予定は無いから全く問題無いんだけど、まさか挨拶の後すぐに帰りの約束が入ると思わなかったから」

というか、昨日のやり取りがあった後の今日だ。一晩経って冷静になった後、やっぱり無しだなと瀬良君から距離を置かれる可能性も心の中で準備していた。していたからこそ、この何事も無いやり取り…というかむしろ、俄然前のめりくらいの勢いをさらりと口にする彼に驚いてしまった。どうやら彼は私の仲良くなりたい宣言を拒否しないでくれるみたいだ。

「だって吉岡さんとの時間そこしか無いし。取られたら困るし」

「私に放課後の時間取られてるのは君でしょ。私とばっかりで平気?他の人と約束とか無い?本当に大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。俺の時間なんだから俺の好きに使って何が悪い」

「それはそうだけど…」

「俺だって吉岡さんともっと話したいんだもん」

「!は、話したいんだもんって…」

そんな、ちょっと照れたみたいな、拗ねたみたいな表情でそんな事言われるなんて、

「クッソ引いた。真剣にやめた方が良い」

「み、三好君」

いつの間に傍に居たのだろう。瀬良君とは反対側から現れた三好君が、今の瀬良君の問題発言に苦言をあらわした。あの表情筋が死んでいる三好君が心底嫌そうな表情をしている。