瀬良君はというと自分の事は粗方語り終えたと判断したのであろう。ニッコリ笑った彼は、「なんか今日はやけに俺に対して乗り気だよね」と、私の顔を覗き込んでその表情を変えずに問う。
「何か心境の変化あり?」
…彼は鋭い人だ。察しが良い。人から向けられる感情に興味が無いと三好君は言っていたし、私もその見解が間違っているとは思わない。瀬良君自身はただ自分の思いに素直に生きているだけだ。しかし彼は興味がなかったとしても、いとも簡単に人の考えを読み取る事が出来る人だった。人の些細な変化にとても敏感なのだ。
「…私、分かり易いのかなぁ」
「最近どんどん分かり易くなってきて俺は嬉しいです」
「じゃあ瀬良君しか分からないのか…」
だから彼は人が自分に求めているものが分かるし、それへの応え方も分かる。だからその居心地の良さに沢山の人が集まり、私もすっかりその中一人になってしまったのが情けない現実だった。
「なんか、君の力になりたいと思って」
「そういえばそれさっきも言ってたな」
「だからどうしたら喜んでくれるかなって。もっと大事にするにはどうしたら良いのかなって思ってしまった訳で」
「いや、どうするもなにも充分喜んでんよ。今日なんか特に嬉しい」
「…なんで?」
「俺に興味持ってくれてんのがすげー伝わるから。なんか吉岡さん、俺の事見てくれてんなぁって」
「……」
「俺とやっと目を合わせてくれたみたいな、そんな感じ」
彼はチラリと私と目を合わせて恥ずかしそうに微笑んだ。
それは嬉しそうではあるけれど、手放しに喜んでいるというよりはどこか寂しげに、切なげにそんな心情を口にして…驚きのあまり、私は言葉を失った。自分でも気づいていなかった。気づいていなかったけれど、言われた事でそれ以外は無いと思える程にぴったりとはまる言葉だった。その言葉は正に今、私が置かれている現状を表す答えそのものだ。
ーーそうか。私は今まで瀬良君の事を見ていなかったんだ。



