「い、居たいというか、なんというか…」

うぅ、ここで肯定するのも何か違う気がするけれど、彼の為に何かしたい事が前提の提案なのだとしたならば、それならばつまり、彼の求める答えを返す事が私のするべき事な訳で…

「う…うん。居たい」

「なーんて。俺の勘違い……へ?」

え、何?あれ?と、声をこぼしながら瀬良君は今のやり取りを繰り返し頭の中で再生したらしく、

「え、マジ?」

声と同様にこぼれ落ちそうな程大きく見開かれた彼の目を見て、私は頷きながら思わず笑ってしまった。格好良い顔が台無しですよ、とは流石に心の中でしか言えなかった。


その後の話し合いの末に、一緒に帰りがてら私の用事を手伝ってくれる、という事で落ち着いた私達は今、最寄りのスーパーで買い物の最中だった。私にとっては行き慣れた場所なので特に新鮮味もないのだけれど、隣に並ぶ彼にとっては…どうやら違うらしい。

「やば、スーパーとかちゃんと来たの初めてだわ」

主婦多い〜やら、なんか店ん中寒い〜やらと、当たり前のような感想を興味深げに呟くのを見て愕然とした。私の歩んできたこの17年間では、そんな人生想像もつかなかった。

「ほ、本当に来た事ないの?小さい時とか親と来なかった?」

「来てないなー」

「あ、共働きでご両親が忙しかったとか、そういう事?」

「まーそんな感じではある」

まるで明日の天気の話でもするかのように何事も感じていないような彼の様子に、そうか、そういう事もあるのかもなと納得せざるを得なかった。ここで少しでも彼の表情に影がさしたり、声に重さが乗ったのならもっと違う感情を抱いたのかもしれないけれど、彼のあまりにも普通な態度は余計な感情を抱く暇も与えてはくれなかった。