「ごめん瀬良君、実は今日そんなに時間無くて少ししか残れないんだけど…平気?」

今朝、彼からの『時間ちょうだい』に頷いた後、迎えた放課後。

「買い物行かないといけないの忘れてて…明日から雨らしいしなるべく買っておきたくて」

「あとクリーニングも受け取り行かないとでね…」と、もっと早いタイミングでも言えたであろう事実を今更言う罪悪感で顔をあげられない私は、俯いたまま彼にボソボソと謝罪をした。

怒っているだろうか。せめて昼休みに告げられていれば、彼だって他の予定を入れられたかもしれないのに…朋花ちゃんと昼休みを過ごしていた分瀬良君との時間が無かった事に加え、なんだか今日はクラスメイトの視線が多くてなかなか彼に近づく勇気が出なかった。意気地無しな自分に嫌気がさす。

「へーきへーき。そしたらもう帰ろう」

「俺は吉岡さんと居られればそれで良いから」なんて、怒るどころか私の為に早く帰る提案を心底嬉しそうに口にする彼に、私の罪悪感はまた大きく重く私の良心を押し潰した。

本当に彼にはしてもらってばかりだ。何かしら彼の為になる事がしたいと思うも何も思いつかないダメな私の為に、彼が挙げてくれた案だったというのに。それすら遂行出来ない挙句、また私だけが満たされている始末…

「じゃあ今日は瀬良君を家まで私が送る。そうさせて」

「は?やだよ。つーか俺んち吉岡さんちより遠いし」

せめてもの償いで出した代案を、驚くぐらいあっさりと断られた。私は割と良い考えだと思ったのだけれど、どうやら彼にとってそれは心底嫌な事らしい。なんでそんな発想になるの?とでも言いたげな、若干引いたような表情で私を見ている。こういう時の彼は本当に態度に遠慮が無い。

「…だって時間が作れなかったから、だったらせめて君の家まで送れば一緒に居る時間が増えるかなって…」

何がそんなに嫌なのかも分からないまま、変に思われた提案の言い訳を口にした。すると、

「え、吉岡さん俺と一緒に居たいの?」

なんて、キョトンとした彼は私の胸を突き抜ける程真っ直ぐな思ってもいない返答を返してきた。…そうか、彼側からしたらそういう事になるのか。