本当の恋がどういうものかと言われると具体的な説明は出来ないけれど、きっといつかは誰しもが通る道なはず、という事くらいは分かる。でなきゃこんなに世の中に恋の歌も恋の話も生まれていない。誰もが自由に持つ権利のようなそれが似合わないだとか、釣り合わないだとかいう感覚がよく分からなかった。むしろ彼みたいな恋する機会が多く訪れる人程近い所にあると思うのだけれど…
「吉岡さんにはピッタリだと思う」
「…つまり恥ずかしい言葉がお似合いだと」
「そうじゃなくて!真面目で誠実な所がそれっぽいって事!俺とは正反対」
「君は適当で嘘つきなの?」
「というか、面倒臭がりで楽したがりなの」
「私だってそうだよ」
「それとは度合いが違うの」
何故か力強く言い切る瀬良君にたじろいでしまい、そこで私は「そうなんだね」と、彼の言葉を受け止めた。全くもってよく分からない…というか、結局何が言いたいのかの検討もつかなかったけれど。
そんな首を傾げる私を見た後、軽く俯いたかと思ったら、彼はフッと小さく笑ってみせた。そして遅れて聴こえて来たのは、ポツリと呟かれた安堵の言葉。「…良かった」なんて。
「ありがとう、吉岡さん。ちょっとそっちの方向で考えてみる」
どうやら納得のいく答えが出たらしい。なんとなく安心したような彼の気持ちが移ったように、私もホッと胸を撫で下ろした。
と、ちょうどその時だった。漂う穏やかな空気とは正反対に、対応を急かすような着信音が鳴り響いた。私のでは無いという事は、彼の方。彼はチラリと画面を確認すると、「じゃあまた。ありがとうね」と、爽やかな笑顔を浮かべて教室を出て行った。
なんだったんだろう…と、ポツンと一人取り残された私は彼が出て行った先を眺めていたけれど、それに何の意味も無い事に気がついて、帰り支度をして席を立った。
「ーー瀬良君、あのねーー…」
教室を出ると、隣のクラスから勇気を振り絞るように出された女子の少し震える声が聞こえて来た。なるほどそうかと、彼の悩み相談がなぜ今このタイミングで私なんかにされたのかが分かった気がした。
『好きになられればなられる程興味がなくなるって、そんな事ある?』
先程の彼の言葉が浮かび上がって、スッと消えた。彼は震える声の彼女に何と答えたのだろう。
断っても付き合ってもどちらにしろ傷つける事になるのなら、私だったらどちらを選ぶのだろう…なんて、考えたって意味の無い事に頭を悩ませながら私もやっと下校した。



