大事にされたいのは君


そう、モテる男とはそういうものなのだと教えこまれてきた私の10年間。私には10個上の兄が居て、兄は昔から現在進行形で相当モテる。そしてその周りの友人らも皆モテる。幼い頃からずっとお世話になっている彼らに今後の勉強だと、男とはを常に教え込まれてきて今の私が居る。もう男子に夢を見る時代はとうの昔に通り過ぎてしまった。

「え?あー…吉岡さん?」

戸惑うような声をあげる彼に、ハッと我に返った。流れるように口をついたけれど、そこが重要な訳ではなかった。完全に脱線していた。

「だ、だからその、仕方ないんだよ。君はモテるし男だし、そうなって仕方ない。だから悩む事は無いと思うよ、今までの人は好きだなぁと思ったけど本当に恋した訳じゃなかったってだけで、君はきっと本当に好きな人が出来たら今までと違う事に気がつくよ」

『でも本命は誰よりも大事にするよ、そんで気づいたら根っこの部分ガッツリ尻に敷かれてんの。男なんてそんなもん』ーーこれもまた、兄とその友人達の言葉。

「だから怖がる事ないよ、次は自分がいつもと違う気持ちになる人を探してみればいいんだよ。そしたらまた新しい出会いが待ってるよ」

人生まだまだこれから。モテる男はまだ10年先もきっとモテる。兄がそうだから間違い無い。

さて。距離が縮まると冷めるから恋愛が出来なくなりそうだというのが相談内容だったとして、これで納得してもらえたのだろうか。私に聞くとこんな感じになってしまうのだけれど、彼はこの答えにどう思ったのだろう。

じっと彼の答えを待っていると、目を丸くしたまま固まっていた彼は私の視線に気づくと慌てて大きく一回瞬きをして、「えっと…うん、そっか」なんて、頭の中でもう一度おさらいをして来たかのような独り言をこぼす。

「…とりあえず、本当の恋をしてないなんて初めて言われた。すごい恥ずかしい言葉だと思った」

「…恥ずかしい奴で悪かったですね」

「あ、いや、そうじゃなくて!こうなんか、俺に似合わないっていうか…近寄り難い、釣り合わない、みたいな?」

「? 別にそうは思わないけど」