「…ごめん。わざわざ来てくれてありがとう、でももういいよ。もうやめなよ。お互い振り回されて疲れるだけだし」
「……」
「……」
瀬良君は黙っていた。同じ様に黙る私を見つめて、ただジッと。その様子からは、私の言葉を受け取って考えを巡らせてくれている事がよく伝わって来た。…伝わって来たけれど、
「俺にカッコ悪い所見せたくなかったんだ、吉岡さん」
なんて、答えを出した彼は私としてはとても恥ずかしい現実を、とても分かりやすい言葉にして提示してきた。間違っていない。つまり簡単に言うとそういう事。瀬良君はちゃんと私の言葉をしっかり聞いて理解してくれている。だからそれは私の八つ当たりにも気づいているし、私の強がりにも気づいているという事で、それがまた私を居た堪れない気持ちで一杯にさせた。自然と、私の頭が重くなって、顔が俯いていく。
「顔あげてよ、吉岡さん」
あげられない。あげられる訳が無い。
「俺、吉岡さんのカッコ悪い所もっと見たいんだけど」
「……いやだ」
「そうだよなー、カッコつけたがりだもんなー吉岡さん。でも良かった、気づけたのが俺で」
ポツリと、どこか満足気な呟きが隣の彼から最後にこぼれた。…格好つけたがりだなんていう言葉はまず置いておいて、だ。
「…気づきたかったの?」
「うん。大事な子の寂しい時は一番に傍に行きたい」
「だからそういう事を君は…私、気づかないで欲しかったって言ったのに」
臭い台詞をあまりにもあっさりと言うものだから、照れ隠しもあってついまた強がりが口をついてしまった。その言葉が本音と正反対だという事も、もしかして彼は気づいているのだろうか。
隣の彼にそっと目をやると、「あ、こっち見た」なんて彼は笑った。その嬉しそうな笑顔を見たら、私を心配して、私の為に来てくれたんだ…と、なんとなく彼の思いを受け取った気持ちになって、心がグラリと揺れた。



