大事にされたいのは君


しかし、彼はあっさりとそれを否定した。

「いや恋は恋だろうけど、それって恋愛じゃなくね?俺は恋愛がしたいから、恋がしたい。恋愛する為の恋じゃなきゃ別にいらない」

キッパリと言い放つその口調。それに抱くのは、単純な疑問。

「…なんでそこまでして恋愛がしたいの?」

だってそうだ。好かれたくないのに好きな人が欲しい。好かれたくないけれど恋した相手には好きになって欲しい。…ただの男の本能的な話なら仕方ないかもしれないけれど、話を聞く限りそんな感じではない気がする。切実に恋愛をする事に何かを求めている気がする。だから彼は居るはずもないと自分で結論づけたはずの相手を探し求めている。

それって一体何なんだろうと、答えを探す私が見つめる先で彼はうーんと、困ったように眉尻を下げて小さく笑った。

「俺さ、誰かの一番大事なものになりたいんだよね」

「一番大事?…君が?」

急に現れたその答え。思わず口から溢れた言葉に、彼は「うわ、ひでーな」とケラケラ笑った。あ、いや違くて…言葉が全然足りてなかった、申し訳ない。

「えっとそうじゃなくて、まさか君がそんな事を言うなんて思いもしなかったから。だって君の事を大事に思ってる人なんて沢山いるでしょ?」

「えぇ?俺に?」

「そう。君はみんなに好かれてると思うよ、だからいつも君の傍には人が居るんだよ。みんな君と一緒に居たいと思って君の所へ来るんだよ」

「…吉岡さんの言ってるのって友達の事?だとしたら俺の欲しいものとは違うよ」

「そりゃあ友達の事は好きだけどね」なんて言いながら彼は笑顔を崩さない。そういえば瀬良君の表情って割と笑ってる事が多いような気がするなぁなんて、関係ない事を思ったりした。笑顔ベースに感情がプラスされる感じ。今は少しガッカリしている笑顔。私に伝わらなくてか、友達では満たされない事を思い出してかなのかは分からないけれど。

「例えば、ふとした時にいつも一番に思い付く存在になりたい。何かと考えちゃう人、みたいな。自分が思うように相手にも思われてるって実感があると嬉しい、みたいな関係が羨ましい」