「このまま、どこかに行きたいな」


ポツリと転校生が呟いた。
ちらりと転校生を見てみると、ずっと遠くを見ている彼女の姿があった。
その瞳には一体何が映っているのだろうか。
それを、俺は知るすべを持たない。


「ーーーじゃあ、このままどっか行くか」
「え?」


俺は、にやりと笑って転校生を見下ろした。
頭一つ分低い彼女は、目を丸くしながら俺を見上げている。


「ぐるりと一周、家に帰るまで」
「それって散歩?」
「散歩、十分どっか行くことになるだろう」
「ハハッそうだね」


転校生は声を出して笑った。
2人並んで河原沿いを歩く。
他愛のない話に花を咲かせる。
今日は今から何のテレビがあるかとか、晩ご飯はなにかとか、いつ寝る予定なのかとか、特に意味のある内容は一つもなかったけれど、穏やかなそして楽しい時間が流れていった。


自分でも今まででは考えられないくらいに自然と転校生と接していた。
光平と一緒に過ごしているのとは少し違う、別の気持ちで落ち着いた安心した気持ちで過ごせる。
この不思議な気持ちをなんと呼ぶのか、今の俺には全く分からなかった。
そして、このときは、自分でも変化に気づくことはなかったのだ。