そうして一日、俺と転校生は肩が触れあうかもしれない距離にいたというのに、話をほとんどすることなく終わってしまった。


「今日は、ありがとう」
「・・・どういたしまして」
「また、明日ね」
「あぁ」


簡単な言葉を交わしてさよならをする。
教室から転校生が出て行くと、なぜか俺がクラスの男どもに囲まれてしまった。


「なぁ、吉田。塩田と話しした?」
「どんなこと話した?」
「彼氏がいるとか聞いたか?」
「どんな奴がタイプとかは?」


まるで、朝の転校生みたいに俺が質問攻めだ。
内容は、転校生についてだったが。
俺は、自分の鞄を持つと、男どもの隙間を縫うように抜け出した。


「なぁ、吉田!」
「俺は、何も話してない。教科書貸しただけだから」


なんとか言葉を絞り出して、男どもの反応を待たずに俺は教室から飛び出した。
まさか、俺が囲まれるなんて思ってもいなかった。
恐るべし、転校生。
俺はやれやれと肩を竦めてから、鞄を持ち直して歩き出した。
高校に入って特にやりたい部活とかもなかったから、帰宅部の俺は、まっすぐ家に帰ることが部活だった。
靴箱で上靴から外靴に履き替える。
特に学校から指定とかもないから靴は自由だ。
個人的にゆったりとして軽い靴が好きだ。
色は、白がいい。
俺の好みに合った靴を履いて下校する。
正門までは、校庭を突っ切らなければならない。
広い校庭ではいくつかの運動部が部活をしている。
主に野球部やサッカー部など球技の部活だからボールが飛んでこないか気をつけなければならない。
前に一度だけ、サッカーボールが背中に直撃したことがあってあれは本当に痛かった。