俺は、人と話をすることが苦手だ。
何を話していいのか分からないし、話して相手の反応を見るのが少し、怖かった。
だからあまり周りと関わることも少なかったし、友だちももちろん数えるほどしかいない。
それが、寂しいと思ったこともたくさん友人のいるクラスメイトを羨ましいとも思ったことはなかった。
こんな俺でも仲良くしてくれるという変わり者が数人いればそれで満足だった。


「塩田 莉桜菜です。よろしくね」
「・・・よろしく」
「名前は?」
「吉田・・・」
「吉田何?」
「真司・・・」
「真司君ね!よろしく。私のことは莉桜菜でいいからね」


そう言ってまたにっこりと笑顔になる転校生が、俺にはとても眩しく見えた。
コミュニケーション能力が限りなく低い俺が、転校生を名前で呼ぶことが出来るわけもなく、俺の中で彼女は転校生、だった。


転校生は、休み時間になるとたくさんのクラスメイトに囲まれて質問攻めにあっていた。
男も女も転校生を囲んであれこれ聞き出そうとしている。
どこの学校だったのか、とか好きなものはないか、とか彼氏はいるのか、とか色々だ。
俺だったら逃げてしまいそうな場面であるのに、転校生は全て笑顔を答えていた。


転校生は、笑顔。


それが、俺の転校生の印象だった。