「ありがとう」
気づいたら、するりと言葉が零れていた。
「こちらこそ、聞かせてくれてありがとう」
転校生の笑顔に俺はくすぐったさを感じた。
「莉桜菜ちゃんは、何していたの?」
もう帰ることにして片付けをしながら光平が転校生に話し掛けた。
「お散歩してただけなの」
「散歩?」
「うん、散歩したい気分だったから」
「そっかじゃああと帰るだけ?」
ギターを背に抱えながら光平は何を聞いているんだろうと思う。
「うん?帰るだけだよ」
「そうか・・・よし、真司お前莉桜菜ちゃんと一緒に帰れ」
「は?」
「もう暗くなって危ないからな。女の子をちゃんと家まで送るんだぞ」
「おい、光平、お前何言って・・・」
「じゃあ、また連絡するわ!」
光平はそう言い残すと手を振って帰って行った。
その場に残された俺は、ちらりと転校生を見下ろす。
確かにもう暗くなってきてこれから1人で女の子が歩くには危ない時間帯になる。
俺の中での選択肢は一つしかなかった。
「・・・帰るか」
「え?」
「送る」
俺がこんなこと言うとは思わなかったのだろうか、転校生は目を丸くしている。
そんなに薄情な人間にはまだ、なったつもりはない。
「送ってくれるの?」
「・・・イヤなら別に良いよ」
「あ、ちょっと待って!」
俺が歩き出せば転校生が慌てて隣に走ってくる。


