キミに伝えたい言葉がある




体に当たる風は冷たいのに、体感は寒いとは感じなかった。


しばらく、風に当たりながらぼんやりしていると、右足に何かが当たって視線を下に下げると、かわいらしいピンクのボールが転がっていた。

「ボール?」

何でこんなところに、と思ながらボールを手に取って周りを見渡すと、少し離れたところに女の子がジッと俺の方を見ていた。
ボールと女の子を見比べてから、俺は女の子の方にボールを差し出す。


「これ、キミの?」

「うん」


女の子は控えめに頷いた。
女の子の周りには、誰もいなかった。


「1人で遊んでいたの?」
「うん、だって遊ぶ人、いないから」


寂しげに、女の子は言った。
私服ではなくパジャマを着ているので、きっと入院している子だと思う。
よく見れば、防寒もしないままだ。


「寒くないの」
「全然!寒くないよ」


俺の質問に女の子は、ニカッと笑う。


ベンチから立ち上がって女の子に近づいた。


「はい」


手渡しでボールを渡すと、女の子は受け取ってジッとボールを見つめた。


「お兄ちゃん、どっか行くの?」
「え?」
「帰るの?」
「・・・」


俺は、少し悩んだ後、首を振った。


「ちょっとここで待っていなきゃいけない・・・それまで、俺と遊んでくれる?」
「!うん!!」


女の子は、名前を『ゆあちゃん』と言った。
俺は、少しゆあちゃんから距離を取ってから、優しくボールを投げてやる。