「あんた、今日何かあったの?」

台所から話し掛けてきた。


「・・・別に」


俺は小さく答えた。
その一言で母さんは、何かを察したのだろう。
俺の目の前に食事を運びながら何気なく言った。


「あんた、いつも言葉足らずだからね」
「なに、急に」
「別に、後悔する前にちゃんと自分の気持ちだったり、関わったりしときなさいよ」
「・・・うるさいよ」
「はいはい」


母さんは、肩を竦めてソファに戻っていった。
湯気の立ち上る食事を見下ろしながら俺はなんとも言えない気持ちになった。
いつもならとても美味しいはずの母さんの料理が、今日はなぜかあまり味が感じられなかった。






次の日、俺はいつも以上に憂鬱な気持ちで学校に向かった。
教室までの廊下がこんなに長いと思ったのも初めてだ。
自分の教室の前に来て、ドアに中々手が伸びなかった。
転校生は来ているのだろうか。
入って俺に気付くだろうか。
そんなことをぐるぐると考えていると、勝手にドアが開いた。
あ、と思うと中から別の人がドアを開けたみたいで、目の前に俺より小柄な女子--転校生が立った。


「あ、真司君おはよ」
「・・・はよ」
「うん」


転校生は、にっこりと笑うと俺の横を通り過ぎてどこかに行ってしまった。
残された俺は、一瞬固まったがゆっくりと教室に入った。
なんだ、昨日のことを気にしていたのは俺だけだったのか。
転校生、普通だった。
考えてしまっていた俺が馬鹿みたいだ。