「誰かのそんな存在になっているなら・・・あの子は幸せね」
「え?」
「いいえ、なんでもないわ」
お母さんが言った言葉を上手に聞き取れなくてもう一度聞き返したけれど、お母さんは首を振って教えてはくれなかった。
病室に帰ると、莉桜菜はベットに付いている机を出して何かを書いていた。
俺とお母さんが入ってくると、さりげなくそれを隠した。
「あ、おかえり・・・お母さんも一緒だったんだ?」
「ええ、そこで一緒になってね」
「莉桜菜、電話してきた」
「どうだった?」
ベットの横で動くお母さんを他所に莉桜菜は俺に身を乗り出しながら聞いてきた。
「明日、10時に来るって」
「ほんと!?」
「あぁ、あとで、看護師さんにも言っとく。明日は寝坊するなよ」
「もちろん!わぁ~嬉しいな!」
鼻歌まで歌ってしまいそうなくらい莉桜菜はご機嫌になった。
そんな上機嫌な様子に水を差すようで申し訳ないと思ったが、俺はちょいちょいと莉桜菜を手招いた。
「?何?」
「ちょっと耳、貸して」
俺は、莉桜菜の耳元に口を寄せると、お母さんに聞こえないようにでも、しっかりと彼女にお母さんときちんと話をするように言った。
「!真司君・・・」
「それ、大事だと思う・・・家族だからこそ、なおさら」
「・・・・」
シュンッとなってしまったけれど、これは莉桜菜がちゃんとしなければならないことだ。


