これは、頭が上がらないな。


俺は、苦笑しながら病院内に戻ろうとした。
ちょうど、入り口の自動ドアを潜ろうとしたところに、莉桜菜のお母さんと鉢合わせになった。


「あら、真司君」
「あ、こんにちわ」
「こんにちわ」


莉桜菜のお母さんは、やはり元気がなかった。


「今から莉桜菜のところに?」
「いや、電話をする予定があって・・・今から莉桜菜さんのところに戻るところです」
「そうなの」


一緒に並んで病院の中に入る。
明日のこと、まだ莉桜菜のお母さんには言っていなかった。


「あの、」
「なにかしら?」
「明日、10時くらいに莉桜菜さんのところに美容師さんが来ることになりました」
「美容師?あの子、髪切りたいとか言っていたの?」
「いえ、振り袖を着たいってことで」
「ふ、りそで・・・?」


莉桜菜のお母さんの足が止まった。
一歩俺は先に進んで、同じように足を止めて、莉桜菜のお母さんの方を見た。
驚き、というのが一番しっくりくるくらいの表情だった。
莉桜菜、何も言っていなかったんだな。


「・・・あの、お話し今いいですか?」


俺が言って良いものかは分からない。
でも、ここで全部伝えていた方が良いと思った。