「なんだよ?らしくないな」
「はは、そうか?」
「そうだよ・・・ありがとうって言うのは俺もだ」


泣いても笑っても、オーディションはこの一回切りだ。
受かっても受からなくても、これで俺たちの挑戦は区切りとなる。




正直、心底緊張した。
心臓が飛び出るんじゃないかってくらいに心音はうるさかったし、呼吸もしづらかった。
オーディションは、俺たちだけ。本当は他の人もいるのかもしれなかったけど、俺たちがいた間は俺たちだけだった。


手は震えるし、レコード会社の人の質問になんて答えたかなんて覚えていない。
必死に歌を歌って演奏して、思い浮かぶ言葉を並べて、オーディションは終わった。


「ーーーーー真司」

「なに?」

「ありがとう。十分だった」


「俺もだよ」


外の空気は冷たいのに、今はちょうど良い体感温度だった。


これから、いつ結果が送られてくるかは分からないそうだ。
郵送で送られてきて、1ヶ月の間に何もなかったら不合格だと思ってくれと言われた。


そんな長く判定に時間がかかるんだな、と驚いた。
きっと忘れた頃に結果がやってくるのだろうか。


「1ヶ月俺、毎日ソワソワしているかも」

「俺、忘れてるかも」

「ひどっ冷たいなー」

「そうか?・・・あ、俺今から莉桜菜のところに行ってくる」


ちょうど目の前の横断歩道は赤信号。
家に帰る方は、青。