「あら?莉桜菜の友だち?」


後ろから声が聞こえてきて振り返ってみると、ボストンバックを抱えた莉桜菜のお母さんがそこにいた。
お母さんは、俺を見ると一瞬目を見開いてから、笑った。


「あら、キミ・・・」
「こんにちわ・・・」
「真司くんだったわよね・・・この前も来てくれていたわね」
「あ、はい」
「ありがとう」
「いえ・・・」


正面からお礼を言われて俺は、なんとも言えず視線を下げた。
お母さんは、莉桜菜のベットの側に来てボストンバックの中身を出し始めた。
中には、着替えやらタオルやらがたくさん入っている。


「いつもありがとう」
「いーえ。何の話をしていたの?」
「んーとね、これ」


莉桜菜は、俺から雑誌を取ると、お母さんに渡した。


「振り袖?」
「うん、着たいなって」
「へぇ・・・かわいいわね」
「でしょう?」
「でも、莉桜菜は、もう少し先でしょ?」
「・・・うん、それは、そうなんだけどね・・・」


莉桜菜の声が小さくなった。
俺は、2人の会話で感づいた。
莉桜菜は、自分の体のことを受け入れている。しかし、お母さんはそうじゃない。
それはそうだろう。大事な自分の娘が病気によって命を奪われてしまうなんて認めたくないと思う。しかも、親よりも先に、なんて。


でも、莉桜菜は受け入れてほしいんだ。
変えられないことであるなら、せめて。


「・・・莉桜菜、しばらく待ってて」
「え?」
「振り袖・・・着れるようにするから」


俺は、そう宣言して、病室から出た。
そのまままっすぐ家に帰って、リビングには母さんがいたから聞いてみることにした。