俺は、入り口で足を止めたまま、動くことが出来なかった。


「莉桜菜」
「あ、お母さん」


中から声が聞こえる。
確認しなくても莉桜菜の声だと分かった。


「調子はどう?」
「良い感じだよ。特に変な感じもないし」
「そう、なら良かったわ」
「うん」


莉桜菜の声は、お母さんの物に比べると明るい。
いつもの彼女の声を聞いているみたいだ。


「莉桜菜、今日家に吉田君が来たわよ」


俺の名前が出てきて、ドクンと心臓が大きく脈打った。


「ほんと?何しに?」
「手紙を届けに来てくれたわ」
「そうなんだ・・・どうだった?」
「そうねぇ、礼儀正しい子だったわよ?」
「ふふ、そうなんだ」


嬉しそうな莉桜菜の声が聞こえる。
俺はそっと開きっぱなしの扉から病室の中を覗き込んだ。
白を基調とした部屋の中に、ベットが一つ。ベットの傍らには棚が置かれていて、漫画本がいくつか積み重なってた。
そして、ベットに座っているのが、莉桜菜本人だった。
いつもの莉桜菜・・・とは言えなくて、顔色はあまり良くなかった。
検査入院と言っていたのに、莉桜菜の左手には点滴の管が繋がっていた。


「ねぇ、莉桜菜」
「何?」
「吉田君には、このこと言ったの?」
「えっとね、入院することは言ったよ・・・検査入院って」
「ほかは?」
「何も・・・病気のことも言ってないよ」


病気。


病気だって?