「鞄・・・貰うね」
俺は、持っていた莉桜菜の鞄を、彼女に渡した。
ここで、さよならをしたら、しばらく彼女には会えないのだ。
「じゃあ・・・またね」
そう言って莉桜菜は俺に背中を向けようとした。
俺は、無意識に莉桜菜の手を取っていた。
「真司君?」
「あ・・・」
俺は、自分のしたことに気づいてパッと手を離した。
「どうかした?」
莉桜菜は首を傾けて俺を見上げてくる。
何かを言おうとか決めていなかったので、俺は目を泳がせた。
「えっと・・・」
「うん?」
「特に、何か用があるかとかでもなくて・・・」
そこまで言って俺は言葉を切った。
明日から莉桜菜はいない。
帰ってくると分かっていても、しばらく彼女の姿を見ることが出来ないということは俺の中で小さな穴が開いてしまうようだ。
その思いに、名前が思いついた。
「明日から、しばらく会えないんだろう?」
「そうだね、でもすぐに帰ってくるよ」
「だよな・・・でも、少し寂しい」
そう言うと、莉桜菜は目を丸くした。
俺からそんな言葉が出てくるとは思わなかったからだろう。
でも、すぐに莉桜菜は笑みを浮かべた。
「私も寂しいよ、でもまた帰ってくるから」
「あぁ」
「今生の別れじゃないんだからね」
「分かっている」
「まさか、真司君からそんな言葉が聞けるなんて思っていなかったよ」
俺も、こんな言葉を言うなんて思っていなかった。


