優しい、なんて面と向かって言われたことはない。
「・・・優しくなんて、ない」
「優しいよ。真司君は」
そう言うと、莉桜菜は桜の木のある公園に入っていった。
「莉桜菜、遅刻する」
「少しだけ」
莉桜菜は、桜の木の前に立つと、ジッと見上げた。
「まだ、緑だ・・・」
「まだまだだろう」
桜の木が花咲かすまで、だいぶ時間がある。
年を越さないといけない。
「そうだよね・・・」
「?どうした?」
どこか感傷している様子に俺は不思議に思った。
しかし、それは一瞬で、すぐに「なんでもないっ」と言って、公園を出た。
そのまま学校に行って、教室に入る。
入る直前に鞄を持つと言われたが、俺は返さなかった。
「いいの?」
「いい」
俺たちは、二人一緒に教室に入った。
ガラッと音と共に先に来ていたクラスメイトの視線が一斉に俺たちに集まる。
「莉桜菜!大丈夫?」
その中で、昨日俺に色々言ってきた絢が莉桜菜に駆け寄ってきた。
「絢ちゃん、心配させてごめんね?」
「それはいいの!もう来て大丈夫なの?」
「うん、軽い熱中症だろうって。みんなも、心配させちゃってごめんね?」
莉桜菜は、クラスメイトにも申し訳なさそうに頭を下げた。
すると、みんなは口々に「気にするな」「心配した」「元気なら良かった」と莉桜菜が来たことに安堵の様子だった。


