春。桜の舞い落ちる頃。
俺は、一本の桜の木の下にいた。
今日は天気も良くて、絶好の花見日和だと思う。
そんな日に俺は、アコースティックギターを背中に背負って、1人この場所にいる。


この場所、とは通っていた高校のすぐ近くにある公園だ。
周りは、子ども連れの親子や花見に来ている若者など様々だ。
彼らから見れば、俺は寂しい1人花見に見えているのだろうか。
そう思うと、なんだか笑えた。


「真司(しんじ)!」


名前を呼ばれて声のした方を見れば、男が1人俺の方に向かって歩いてくる。
その顔は、すっかり慣れ親しんだ友だった。


「光平(こうへい)どうしたんだ?」
「それは、こっちの台詞だよ」


光平は、俺の隣に立つと苦笑して俺の前にある桜を見上げた。


「また、ここにきていたのか?」
「・・・あぁ」
「あれから・・・もう5年も経つんだな」
「・・・そうだな」


俺と、光平は今同じことを頭に浮かべているのだろう。
5年。
思えばあっという間に過ぎ去って行ってしまった年月だった。
目を閉じれば鮮明に思い出すことが出来る、『キミ』と過ごした日々。
思い出のどれも『キミ』は笑顔だ。


『あのね、真司君、私ね・・・』


透明感のある声はもう遠く彼方だ。
俺は、空を見上げた。
透き通った水色の空が頭上に広がっている。

『キミ』は今何をしている?
笑顔で過ごしているのだろうか?
苦しんでいないだろうか?




答えは、誰も教えてはくれない。