「いや。だからまじ、なんでなんすか」

教師が高本くんを呼び、彼が返事し、続いて名前を呼ばれたタケモリがそう言うのは、もはや授業が始まる前の恒例となっている。

「自分名前、タケノモリなんす。松竹梅の竹――竹林の竹に、森林の森――木を三つ書く森で、タケノモリなんす。タケモリじゃないんす」

タケモリの毎度欠かすことのない詳しい自己紹介に、教室は一瞬笑いに包まれる。


「あれ、先生ももうわざとだよな」

ふと、わたしの隣の席の男子、松本(まつもと)が言った。

その声にも笑いが滲んでいた。

「やっぱりあいつ、いじりやすいんだろうな。毎回だし」

「ああ……そう思う?」

「いじりづらいやつだったら、こんなに繰り返し間違えることもないだろ? おっかなくて間違えられやしねえはずだ」

「まあ……確かに。わたしから見てもタケモリはいじりやすい」

「タケノモリ、だけどな」

わたしが笑い、しばらくして松本とわたしも呼ばれた。