「美澄さんって、得意なことある?」
高本くんの問いのあと、ししおどしが音を響かせた。
「得意なこと……。妄想かなっていうのは、前に言ったっけ?」
「どうだったろう……」
「強いて言うなら、やっぱり妄想かな」
「得意な教科はある?」
「文系科目か理数系科目かだったら、間違いなく文系科目の方が好き。小学生の頃は、作文がちょっと好きだった」
「へええ、作文?」
「そう。でもまあ、作文に限らず、自分で文を書くのが好きだったな。
なんか遠足行って、帰ってきてからその思い出みたいなのを書かされるってのあったじゃん?
あれ、嫌いじゃなかった。まあ、好きというよりもその時間は勉強しなくていいっていう方が大きかったけど」
「俺はあれどちらかというと嫌いだった。確かに国語とか算数っていう勉強という勉強をしなくていいのは嬉しかったけど、文章書くの好きじゃないし、絵も色塗るの嫌いだし――みたいな」
「へええ。高本くん、絵に色塗るの極端に嫌がる感じだけど、前に色を塗って大きな失敗でもしたの?」
少しの静寂のあと、ししおどしの音にふっと笑うような息が紛れた。
「それも……俺に勇気が出たら話すよ」
「勇気……そっか」
少し前にも聞いたな、と思った。
「勇気が必要なくらいなら、話さなくていいよ」