「嫌よ、嫌よ、勉強。好きに、なれない、勉強。ゆえに、上がら、ないの、成績。春は芽吹きの季節、なのに種を忘れ……ゆえに、上がら、ないの、成績――」
わたしはため息をついた。
歌いながらならば捗るだろうかと考え、序盤は問題文を読んでいたものの、いつの間にか本音が曲のなりそこないを独占していた。
風鈴が夏らしい音を響かせる。高本くん曰く、風鈴は年中ぶら下げてあるらしい。
「だめだ、歌って嫌いを克服しちゃえたらいいね作戦。全然嫌いを克服しちゃえてない」
「歌詞が問題文だったの、Aメロの一言二言くらいだったよ。覚えやすかったのであろうメロディ見つけた途端に本音が独占してた」
「そもそもこの問題文、曲付けづらいんだよ」
「曲を付けるための文字じゃないから……」
「高本くんどこまで進んだ?」
ちらりと目をやった先では、ノートの書き写しのような作業が行われていた。
「俺気づいたんだ。授業内容の復習と称してるだけあって、ほとんどノートに答えに近いことが書いてあるって」
「たださあ、わたしくらいの馬鹿になってくると、覚えることに必死で黒板の内容を写すのにいろんな色使うのね。というのも、大事なことだけ色ペンで書けばいいのに、どれも大事なことに感じるから。
そうするとあら不思議、最高に見づらいノートの出来上がりってな感じで、恐ろしくその答えに近いことってのが見つけにくくなるのね」
隣のシャーペンのみで文字が綴られたノートを見ながら、「高本くんを見習いたいよ」と続けた。



