「ああそうだ」
スピーカーと生け花のあるいつもの和室で、わたしはビニール袋から菓子を取り出した。
甘い飲み物を求めて立ち入ったコンビニで購入したものだ。
「気まぐれの差し入れ。『かろやかメロン』と『かろやかイチゴ』。知ってる?」
「知らない」
興味ありげに言いながら、高本くんはわたしが出した袋の一つを手に取った。
「わたしのお気に入りのメーカーさんがつい最近――先週辺りかな、に出したお菓子でね。ゲレンデクッキーって食べたことある?」
「ゲレンデ?」
高本くんは上目遣いに聞き返した。
わたしは「ああ違う」と手を振る。
「メレンゲだ。メレンゲクッキー」
「いや、ない。メレンゲも、ゲレンデも」
「そっか。このお菓子ね、食感はそのメレンゲクッキーみたいな感じなんだって言いたかったんだけど……」
ウィンタースポーツチックな単語が出てきちゃった、とわたしは笑った。
「で、名前の通りすごい軽い感じなの。で、味がすっごいメロン、イチゴ。本物みたいな」
「へええ」
「ところで高本くん、イチゴとメロンはお好き?」
「うん。むしろ俺、嫌いなものないから」
「ああ、それはよかった。いや、なにも知らずに持ってくるなよって話なんだけどね」
わたしが苦笑を付け加えると、高本くんは「とんでもない」と優しく首を振った。
「でもちょっと今は」とテーブルへ菓子を戻す。
「先に楽しむとあとの宿題がいつも以上に地獄に感じるから」
ああわかる、とわたしは心の底から返した。



