その瞳に写る頃


いつからか、高本家の呼び鈴を鳴らすのに勇気を必要としなくなった。

慣れとは恐ろしいものだと思いつつ、短い静寂の時間を待つ。

「はい」と聞こえる大人びた男の声に「美澄です」と名乗る。

「はい、ただいま」の声のあと、しばらくして声の主が現れる。


「おつかれさま」

お待ちしておりました、と高本くんは大きな門扉を開いた。

笑顔でわたしを出迎える彼は、光沢のある白いシャツに黒い長ズボンという、今となっては見慣れた服装だ。

今でこそ特に緊張感もなく「おじゃまします」と足を踏み入れるが、外観は数百円の薄っぺらいティーシャツに千円弱の軽いジーンズといった服装で立ち入るべき場所ではない。