その瞳に写る頃


青く光る信号に従い歩き出した。

一つの情報が頭をよぎる。

人間は睡眠中に記憶を定着させるというものだ。

ならば、と思った。

「休み時間中に寝る……。そうすれば――」

一時間弱の間に得た情報が毎度その直後に脳へ定着され、成績が上がる――。

いや、と再度頭を振る。

「……わたし、一回寝たら起きねえじゃねえか」

くそっ、と腹の中で吐き捨てる。


喫茶 なつしろから、上品な印象を受ける中年の女性が出てきた。

藤色のカーディガンに白のロングスカートという出で立ちだが、どれも高価なものなのだろうと想像する。

この辺りにこんなにも多くの金持ちがいたことに驚く。

この辺りでは高本家を除いて高そうな家も、高そうな車も見かけない。

辺りを軽く見渡して確認できるのは田んぼか畑だ。

わたしの夢は、将来高本家のような大きな日本家屋に住むことだが、なんとなく叶わないもののように思えた。

今年で高校生を名乗ることもできなくなる。

嫌々探し、ようやく決まった就職先から得られる給料は平均以下、そのうちの少しをなんとか貯金しつつ働き、気づけば今のわたしくらいの少年少女におばさん呼ばわりされるのだ。

いや、とまたしても頭を振る。

そんなことはないと自分に言い聞かせた。

夢持っていこうぜ、と自分を励ます。